「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」50代男性へのおすすめ度
★★★★☆ ← イギリスで生活する移民の大変さが理解できます
あらすじ
内容紹介(「BOOK」データベースより)
大人の凝り固まった常識を、子どもたちは軽く飛び越えていく。
世界の縮図のような「元・底辺中学校」での日常を描く、落涙必至のノンフィクション。目次(「BOOK」データベースより)
1 元底辺中学校への道/2 「glee/グリー」みたいな新学期/3 バッドでラップなクリスマス/4 スクール・ポリティクス/5 誰かの靴を履いてみること/6 プールサイドのあちら側とこちら側/7 ユニフォーム・ブギ/8 クールなのかジャパン/9 地雷だらけの多様性ワールド/10 母ちゃんの国にて/11 未来は君らの手の中/12 フォスター・チルドレンズ・ストーリー/13 いじめと皆勤賞のはざま/14 アイデンティティ熱のゆくえ/15 存在の耐えられない格差/16 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン
キーワード
イギリス、中学校、貧富の差、人種差別、多様性、社会の分断
感想
ブレイディみかこさんの作品を読んだのは、
この本「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で2冊目です。
1冊目の「ワイルドサイドをほっつき歩け」は、いろいろな意味で面白かったし、
今回も、私の知らないイギリス人たちの生活を垣間見れて、とてもためになりました。
本書は、イギリスで生活している作者が、
身近な生活・日常で起こる格差や分断について伝えてくれています。
主なエピソードは、作者の息子さんの中学校生活についてです。
本書を読むと、
イギリスの中学校で問題となっている「格差や人種差別」について知ることができます。
イギリスに留学予定とか、将来、イギリス人と結婚するかもしれないお子さんがいる50代男性は、
ぜひ読んでください。
面白いというよりも、私にはとてもためになりました。
「将来、日本もこんな風になるのかもしれない。」と考えさせられました。
私が気に入った文章
1.イギリス人は日本人より多様性に馴染んでいると思っていたが案外戸惑っている。
「でも、多様性っていいことなんでしょ? 学校でそう教わったけど?」(59ページ)
~ 中略 ~
「どうしてどっちかじゃないといけないんですかね?」(63ページ)
「無理やりどれか一つを選べという風潮が、ここ数年、なんだか強くなっていますが、それは物事を悪くしているとしか僕には思えません」(64ページ)
~ 中略 ~
分断とは、そのどれか一つを他者の身にまとわせ、自分のほうが上にいるのだと思えるアイデンティティを選んで身にまとうときに起こるものなのかもしれない、と思った。(65ページ)
6ページ分の文章でちょっと長いのですが、
この本のメインテーマを内包しているので取り上げました。
59ページの文章は、
作者であり母親のブレイディみかこさんと、中学生の息子さんの会話です。
息子さんの友達二人が、お互いに相手をヘイトしあっていて困っている。
それを何とかしたいと母親に話しているところです。
ヘイトの理由は、
イギリスで問題となっている「貧富の差」と、
移民増によって多民族国家となったことによる人種間の「いがみ合い」です。
なぜこの文章が気になったかというと、
「自分の子供が中学生のときに、親子でこんなディープな会話をしたことがなかった」
からです。
日本でも今まさに「貧富の差」が問題になっているし、
将来、外国人労働者の定住によってイギリス同様、
学校を含むコミュニティの中で人種間の「いがみ合い」が頻繁に起こるかもしれない、
と想像できたからでした。
そうなってほしくないのは、もちろんです。
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63ページと64ページの文章は、
価値観による意見の相違について、こちらの学校はどのように対応しているのか、
保護である作者から質問された中学校の校長の回答です。
「この考え方はA、この主張はBと、考え方や主義主張を個別にグループ分けするのではなく、
曖昧さを受け入れたり、受け流したりすることが学校生活を円滑にする知恵ではないか。」
「いろんな考えがあって当たり前」というのが校長の考えでした。
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65ページの文章は、
上記の校長の考えを聞いて書かれた文章です。
作者は校長に同調したわけです。
私がこの一連の文章を気に入ったのは、
「多様性についての悩みは、どこの国でも同じなのかもしれない」と感じたからです。
どこの国でも、
多様性を主張する人と、どう接するのが正解なのか分からず戸惑っている人が大部分
なのかも知れません。
将来の日本社会の参考になるエピソードだと思いました。
2.イギリスでは人種差別は違法です。
「納得いかないのはティムのほうが厳しい罰を受けたことなんだ。・・・」
~ 中略 ~
「それじゃまるで犬のしつけみたいじゃないか」
息子の真剣な目つきを見ていると、ふと自分も彼と同じぐらいの年齢に戻ったような気分になった。(67ページ)
自分の意見を素直に話せる親子関係がいいなと思ったと同時に、
イギリスにおける人種差別や格差を含む社会問題が、子供たちの中に浸透してしまっていることに驚きました。
この文章を読んで、さらに日本の将来を心配してしまいました。
3.イギリスでは「民間が何とかしないといけない」という意識が強いようです。
「今年はほんとうに路上生活者の数が多い。
緊縮財政で、自治体事態は何の緊急支援もできなくなっているから、民間がなんとかするしかない」(78ページ)~ 中略 ~
「・・・だからこうやってみんなで集まって、ホームレスの人々にシェルターを提供したり、
パトロール隊が出て行ったりしているの」(80ページ)
イギリスでは、行政が緊縮財政でなにもできないから、
民間が困窮している人を手助けしないといけないという意識がとても強いようです。
私なんかはせいぜい「赤い羽根共同募金」や「一円募金」、
「歳末助け合い募金」をする程度なのにイギリスではなんか違う感じです。
自宅の食糧を持ち寄って寄付したり、自分の時間を使って困っている人を探すパトロールをしたり
する行為が一般の人たちに浸透しているようです。
なぜ浸透しているのか聞いてみたいし、なにが日本と違うのか気になりました。
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場所は、ホームレスの人たちを助けるボランティア活動の会場。
当然、作者が息子さんをボランティア会場に連れて行ったのですが、
日本でホームレスのボランティア活動に自分の子供を連れて行くなんてこと、
まずないだろうと思いました。
そして、
ボランティア活動中にこの会話をしているのは、作者の友人女性と、作者の息子さんです。
友人女性は息子さんの通う保育所で働いていました。
いい意味で二人のこの会話に、イギリスらしさを感じました。
今の日本に、
友人の子供に緊縮財政やボランティア活動の必要性について話す大人がいるだろうかと、
考えさせられました。
特に話して聞かせる必要はないとは思うのですが、
イギリスはボランティアに対する意識も含めて、何か日本と違うなという思いになりました。
見習うべきことがあるように感じました。
4.ボランティアと善意について
「ホームレスの人から物をもらっちゃったりしてもいいのかな、ふつう逆じゃないのかなって
ちょっと思ったけど。でも。母ちゃん、これって・・・善意だよね?」と息子が言った。
「うん」
「善意は頼りにならないかもしれないけど、でも、あるよね」(84ページ)
ボランティア活動中に、ホームレスの人からキャンディーを貰ったことを母親に報告する息子。
「貰ってしまったけど、いいのかな?」と悩んでいるのがかわいい。
自分が行ったボランティア活動は善意である。
その善意に対して、
ホームレスの人がキャンディーをくれるという善意で返してくれたことを嬉しく思っている。
「いい体験したね」と私の心が微笑みました。
5.心の成長について
「話す必要のないことも、世の中にはあるんだよ」
息子はちょっと肩をすくめて、
「まあね、それはわかる」(191ページ)
母が涙を流している様子をみて心配した息子が、
泣いている理由を尋ねたら、母は「何もない」と返答する。
母は言う「話す必要のないことも世の中にはある」と。
それに「わかる」と返答する息子。
うらやましい親子関係だなと思った。
きっとこの息子も親に話していないことがたくさんあるのでしょうね。
私もそうでした。
いや、今でもそうでした。
6.学校欠席罰金について
「なんでデモに行かなかったの?」
と聞いたら、彼は答えた。
「だって、カウンシル(地方自治体)から父ちゃんと母ちゃんが罰金食らっちゃうでしょ」(241ページ)
作者の息子さんが、
環境保護を訴えるデモに参加しなかった理由を、母親に説明している文章です。
両親に罰金を払わせたくないので、デモにはいかなかったのです。
イギリスでは、
公的に認められない理由で子供が学校を休むと、両親ともに罰金を払わないといけない。
しかも、滞納すると禁固刑に処される法律(学校欠席罰金)があるそうです。
恐ろしい。
日本ではちょっと考えられないですね。
この法律(学校欠席罰金)は、バカンス前に子供を休ませるのを防ぐ目的でできたらしいです。
こんな法律を作らないといけないイギリスって何かおかしいです。
イギリスの金持ちは、旅費が安いからという理由で
バカンスシーズン前に、子供に学校を休ませて家族旅行に行ってしまうそうです。
イギリスの金持ちは、自分勝手でケチなのだと思います。
そのおかげでこんな法律ができて、貧乏人の家庭にしわ寄せがきているという事実を、
作者は本書の中で伝えています。
確かに気の毒な気がします。
学校欠席罰金のおかげで、イギリスでは、
金持ちの家は子供に学校を休ませたりできるが、
貧乏な家は罰金が払えないので学校を休ませられないという現象が起こっているそうです。
虐めで学校を休んだり、心の問題で不登校になったりすると罰金がまっているのかもしれません。
金持ちは休めて、貧乏人は休めない。
なんか仕事みたいですね。
学校を休ませるにも貧富の差が関係してくる社会って変んだと思います。
おわりに
これは私の読書感想文なので、みなさんに賛同してもらいたいという訳ではないのです。
ですが、
私の中で民主主義の先輩として考えていたイギリスという国がいつの間にか、
公に認められない理由で、親の都合で学校を休ませたら、子供の両親に罰金が科される国になっていたなんて。
その事実を知ってとてもショックでした。
自分勝手なルールが蔓延している社会、
子供の親の自分勝手なルールを法律で規制しないといけない社会にイギリスが陥っている
としたら、とてもショックです。
イギリスがそういうところまで行っているとは思ってもいませんでした。
今回、本書を読んで、日本でも問題になっている、
経済格差や社会の分断についてイギリスの状況を知ることができました。
「将来、日本もイギリスと同じ道を歩むのかもしれない」と考えると、
とても参考になりました。
ブレイディみかこさんは、2022年12月現在、雑誌「MORE」(モア)でエッセイを連載中です。
興味を持たれた方はぜひ、雑誌「MORE」(モア)もご覧になってください。
50代男性にぜひ読んでもらいたい
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の紹介でした。
この他にも「ブレイディみかこさんの本」を紹介しています。
下記の画像をクリックして、併せて読んでみてください。
【ブレイディみかこさんの本】