「隠し女小春」(かくしめこはる)50代男性へのおすすめ度
★★☆☆☆ ← 新しい小説(ジャンル)にも目を向けたい50代男性向け
あらすじ
内容紹介(「BOOK」データベースより)
ラブドールと暮らす男が、生身の女性と恋に落ちた。
前途で男を待ち受ける危険と陥穽(かんせい)とはー「捨てないで、…私を」。
キーワード
ラブドール、女バーテンダー、映像翻訳者、ドライブ、ランドクルーザー
感想
おじいさん小説家が書いたラブドールが主演のサスペンス
何しろラブドール(ダッチワイフ)が意志を持ち勝手に歩き回るのだからビックリ!
読者はそのファンタジー世界についていかないと読み進められないのですが、
まあ大方の読書好きなら、最後まで読み切れると思います。
主人公の矢野聡(やのあきら・男性)は毎晩、ラブドールと添い寝します。
そのうちラブドールもベッドの中で自分から積極的に行動するようになります。
ラブドールのお手入れやメイクについても書かれていますから、
人生経験豊富な50代の男性読者ならエッチな妄想を楽しむこともできるでしょう。
生身の女性も二人登場します。
一人は女バーテンダーで、主人公のセックスフレンド。
「AV女優」としてアダルトビデオに一度だけ出演した経験があります。
もう一人は映像翻訳家で、主人公はこの女性とも一夜をともにします。
エッチなことを妄想するのが好きな50代男性であれば、いろいろな意味で楽しめる小説だと思います。
愛車は「ランドクルーザー」
主人公は文学部国文学科卒で、出版社に勤めている正社員。
校閲部に所属し、校正の仕事に携わっています。
主人公の性格に合わない愛車だな、違和感あるなと思っていたら、
「ランドクルーザー」を愛車にした理由が最後にわかりました。
ネタバレになるので書きませんが、
「こんなことのためにランクルにしたのか」というのが率直な感想。
理由は最後まで読めばわかります。
薀蓄(うんちく)の多さにうんざり
途中までは良かったんです。
辻原登さんの小説を読むのはこの「隠し女小春」がはじめてで、
「このまま読み切ったら辻原登さんのファンになっちゃうかも」と思ったくらいですから。
本書は3章構成で、261ページで完結。
私が楽しめたのは第2章(178ページ)までで、
第3章からは、語られる薀蓄(うんちく)の多さにうんざりしてしまいました。
小説だった本が、第3章からガイドブックに変わってしまいました。
ガイドブックに変わってからは、読者を置き去りにした、
老人作家の自己満足を押し付けられているように感じました。
本書の256ページに、そのように感じた文章がありますので、読んでみてください。
私としては、
後半にきて登場人物たちの考え方や気持ちが前半とどう変わったのかが読みたかった。
主人公の心が揺らぎ、葛藤する様子を読みたいのに、
心情を吐露する文章は少なく、胸を打つような文章はない。
街や店の薀蓄(うんちく)解説ばかりが事細かく綴られるばかり。
「ここまで読んできたのが何だったのか」と思うほど残念に思いました。
ラブドールが自分の意志で街を歩いたり、植物園に行ったりと、
突拍子もないことがストーリーにでてきます。
「作者が薀蓄(うんちく)を披露するのは、突拍子もないファンタジー世界を中和するのが目的」
「実際に存在する場所や事実をこと細かく書くのは、作中のバランスをとる高等テクニックである」
とも考えましたが、そうではないでしょう。
突拍子もないファンタジーが、ストーリーとして破綻したまま進んでしまい、
修復できなくなったため、薀蓄(うんちく)披露でページを稼いだものと想像します。
そうだとしても、あまりにも薀蓄(うんちく)に偏り過ぎていてうんざりしました。
エッチな妄想を楽しめる50代男性にはおすすめできますが、
その目的以外の方にはつまらない本だと思います。