何も考えないで読むと面白いミステリー「最後の鑑定人」岩井佳也

最後の鑑定人 岩井圭也 小説

「最後の鑑定人」50代男性へのおすすめ度

★★☆☆☆ ← 何も考えないで読むと面白いですよ!

あらすじ

内容紹介(「BOOK」データベースより)
科捜研のエースとして「彼に鑑定できない証拠物なら、他の誰にも鑑定できない」と言わしめた男・土門誠。
ある事件をきっかけに科捜研を辞めた土門は、民間の鑑定所を開設する。
無駄を嫌い、余計な話は一切しないという奇人ながら、その群を抜いた能力により持ち込まれる不可解な事件を実験データから読み解く。
ある日、殺人事件の被告人を調べた二種のDNA鑑定が持ち込まれる。
一方は被告人が犯人であることを示し、他方は彼が犯人でないことを明らかにしていた。
客観的な情報から土門は衝撃的な仮説を導き出すー。

岩井圭也(イワイケイヤ)
1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。
2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

キーワード

鑑定

感想

岩井佳也さんの本を読んだのは、「最後の鑑定人」がはじめて。

「最後の鑑定人」は、4編の連作短編です。

中学生レベルの文章と内容なので、
時間つぶし的に「へーそうなんだ」と何も考えずに読み進めると面白いです。

実際、私はスラスラと読み進めることができました。

しかし、「ちょっと物足りないな。もっと掘り下げた文章も欲しいな」などと考えてしまうと、
いっきにつまらなく感じてしまう恐れがあります。

なので、何も考えずに読み進めることをお勧めします。

「最後の鑑定人」の星の数については、
3つにするか、2つにするかで思い悩みながら読んでいました。

最終的に、星2つとしたのですが、その理由については後述します。

次からは、4篇の短編の感想を個別に書きます。

第1章「遺された痕」

暇つぶしにはとてもいいですよ。

「遺された痕」の内容はとても陳腐です。

真犯人についても簡単に想像することができました。

もちろん、真犯人は予想通りで合っていたのですが、
土門誠(主人公)が真犯人を指し示す過程、「早く犯人言ってよ!」の過程が長かったです。

万が一間違っていたらどうしようと考えてしまい、
不覚にも読んでいてドキドキしてしまいました。

私もまだまだダメですね。

内容は陳腐ですが、ストーリーの進め方は普通(中学生レベル)なので、
スラスラと読めてしまいます。この点は評価できます。

第2章「愚者の炎」

作者が、ミステリーとして書いている物語なのかどうかもわかりませんが、
「愚者の炎」も事件の真相(火災の本当の理由)を当てることができました。

私が予想して当てられるほど、
簡単なミステリー(謎解き)であることをご理解いただければと思います。

土門誠(最後の鑑定人)が真犯人(事件の真相)を突き止めて、
真犯人が逮捕されて、真犯人が事件の真相を語ってエンディングに至るのは4篇とも同じです。

まあ、ミステリーなので、誰かが真相を語らないと物語を終わらせられないのですが、
語られる真相の内容と文章に重厚さがなくて物足りない、つまらないんです。

スラっと読めていいのかもしれませんが、まあ中学生レベルの語りですね。

この点を良しとする人には、面白いとなるのかもしれません。

第3章「死人に訊け」

「最後の鑑定人」を読むと、鑑定のテクニックについて色々と知ることができます。

ですが、「実生活で役に立つことはない」と思います。

第3章を読んで「最後の鑑定人」をつまらなくしている理由がハッキリしました。

どの犯人も「事件の真相を誰かのせい」にしていることが、つまらない理由です。

「犯人が本人の意思で行った犯行なのに、犯行のきっかけを誰かのせいにしている」
このことがつまらなく感じさせる理由です。

あいつのせいでこうなった」、
犯人たちはエンディングで決まって真相についてそう語ります。

すべてが、育った環境・周りの目・他者からの影響など、他者の責任なんです。

犯行に主体性がないので読んでいてつまらないのです。

「ついに目的を達成した!」という犯行ではなく、
周りに流されて犯行に及んだ犯人だらけだから、つまらなく感じるのだと気づきました。

「最後の鑑定人」は、よくある探偵小説のような、
確固たる目的を持った悪人と、優秀な探偵との対立を軸にした小説ではありません。

犯行の理由は色々でしょうから、全部が全部、対立構造でなくてもいいのですが、
主体性のない犯人には同情も、感情移入も起こらないことが、
「最後の鑑定人」を読んで良く理解できました。

このことは、197ページの文章によく表れていますので、読んでみてください。

下記は、土門誠の台詞です。

「・・・・・・被疑者の動機に、正しいも間違っているもありません。あるのは、罪を犯したという事実だけです」(197ページ)

この考えには私も賛同するのですが、
あざやかな鑑定結果を見せつけられるだけの小説は、私の好みではありません。

第4章「風化した夜」

「上役に恥をかかせたら、部下が腹を切る。それが警察の常識」(223ページ)

ということらしいです。

第4章もこれまでと同様のパターンです。

土門が犯人を特定します。

その犯人は、自分の犯行を「誰かのせい」にします。

第4章でやっかいなのは、
犯人が自主できなかったことも「誰かのせい」にしていることです。

4篇続けて同じパターンなんです。

もっと他にないの? が第4章の感想です。

星2つとした理由

最初に「星2つとした理由を後述します」としましたので、ここにその理由を書きます。

「最後の鑑定人」を、星2つとした理由は、文章の端々に違和感を覚えたからです。

違和感を覚えた文章:その1

・文章A:土門の問い

「被害者の名前を覚えていますか」(269ページ)

との土門の問いに、隼人(真犯人)は被害者の名前を覚えていませんでした。

・文章B:土門誠が隼人に自首を促す目的で言った台詞

「あなたも、西村さんも、私も、大事なことを見落としていたのではないでしょうか。誰がやったか、そればかり追い求めて、被害者とその周囲にいる方々を見過ごしていた。被害者やご遺族は何を望んでいるか。考えれば、おのずと答えは出るはずです」
(271~272ページ)

土門は「被害者や遺族の気持ちをもう一度考えろ」と言っています。

「今からでも遅くない、正しい道に進め」ということです。

・文章C:突然、違和感を覚えました 

その曲がった道を遺族の涙と慟哭で覆い隠すことで、隼人は日常を生きることができた。だが永遠に隠すことはできない。(272ページ)

「曲がった道を遺族の涙と慟哭で覆い隠すことで、隼人は日常を生きることができた」とは
どういうことなのか、この文章の意味が理解できなかったし、違和感を感じました。

隼人が、名前も覚えていない被害者のことを顧みていたはずがありません。

隼人は、自分の犯行をとっくになかったことにしているから、
被害者の名前も忘れ普通に生活できていたのです。

それなのに、「遺族の涙と慟哭で覆い隠す」とは一体何なのか、
具体的に何のことを言っているのか、まったく理解できませんでした。

「文章Cは、なかった方がよかった」と思います。

文章Cは、これまでの文章の流れをいっきに悪くしてしまった、
辻褄が合っていないというのが私の感想です。

違和感を覚えた文章:その2

土門が、科捜研を辞めた動機を語った文章です。

「真鍋さんが犯人ではないとわかった時、私は思いました。己の鑑定結果すら信じられない人間に、科捜研にいる資格などない。警察を辞めたのは組織に愛想が尽きたからではなく自分自身に愛想が尽きたからです。かといって、私には他に能もありません。結局は民間で鑑定事務所を開くしかなかったんです」(275~276ページ)

なんで同じ仕事を続けるのかな。普通、別の仕事するでしょ。

「己の鑑定結果すら信じられない人間」なのに、民間で鑑定事務所を開くのはおかしいです。

「パトカーの運転に自信がなくて警察を辞めたが、今はタクシーの運転手をしています」
と言っているのと同じで、こんな人が運転するタクシーは誰だって乗りたくないです。

なんか、言ってることが、ちぐはぐなんですよね。

「私たちは、白でも黒でもない。どこまでもグレーな存在です。だからこそ、科学に頼りたくなるんじゃないですか」
そう言って、土門は笑った。それは今まで見たことがないほど柔らかく、優しい笑みだった。(276ページ)

「だからこそ、科学に頼りたくなるんじゃないですか」などという人は、
科学がすべてを解決してくれると信じている変わり者です。

人は、科学ではなくて、科学を操る人間を頼りにするのです。

科学を題材にしているとはいえ、一応は小説なんだから、
物語の中でもっと主人公の感情をつまびらかに、オープンにしてほしかったです。

変わり者すぎて、私は土門という主人公に感情移入できませんでした。

これまでの文章からしても、主人公のこの発言からしても、俺は普通の人間とは違うから
「感情移入して読まないでね」と言われているような気がしました。

私のように「土門さんならこう考えるかな」と想像して、
感情移入して物語を読みたいタイプの読者には向かない小説だと思いました。

まあ、こういう小説を書きたかったというのなら仕方ないけど。

読んでてつまんないよね、感情移入できなし、言動もちぐはぐなんだから。

感情移入できなし、言動もちぐはぐな小説だったので星2つにしました。

今回は、何も考えないで読むと面白い「最後の鑑定人」を紹介しました。

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