軽トラの乗り心地を教えてくれる小説「田舎のポルシェ」篠田節子

田舎のポルシェ 篠田節子 小説

「田舎のポルシェ」50代男性へのおすすめ度

★★★☆☆ ← 車好きの50代男性が読むと微妙な感想になりそう

あらすじ

目次(「BOOK」データベースより)
田舎のポルシェ/ボルボ/ロケバスアリア

キーワード

ドライブ、秘めた目的、ハードなトラブル、ドタバタ

感想

篠田節子さんの小説を読んだのは、この「田舎のポルシェ」で2冊目。

文章は上手です。

「田舎のポルシェ」には、3篇の中編小説が収録されています。

3篇とも「車でドライブして、ドライブ中にトラブルが勃発してさあ大変」
というストーリーです。

星の数を2にするか、3にするかで迷ったんだけど、
最後まで読み終えられたので、星3つにしました。

本書「田舎のポルシェ」は、面白いとする人と、つまらないとする人で分かれると思います。

私の感想は、1勝2敗でつまらないの方です。

最後の「ロケバスアリア」は良かったけど、
「田舎のポルシェ」と「ボルボ」はもう一つでした。

どうして1勝2敗の感想なのか、3篇の感想を個別に書いていきます。

1篇目「田舎のポルシェ」

『田舎のポルシェ』
実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。波乱だらけの強行軍。内容紹介(「BOOK」データベースより)

題名と内容に違和感を感じてもうダメ!

車好きの視点で感想を書きます。

ストーリーとはまったく関係のない題名でがっかりしました!

別の題名でこのストーリーであったなら、違う感想になったかもしれないなと思いました。

「ポルシェ」と題名にあるので、
車好きの人がうっかり手に取って読むと「つまらない」になると思います。

私がそうでした。

「田舎ではポルシェがこんな風に活用されています!」とか、
「ポルシェのドライビングを楽しむなら田舎がぴったり!」とか、
車好きの人が単純に思いつきそうなストーリーではまったくありません。

はっきり書いていませんが、この小説は「軽トラ」のことを「田舎のポルシェ」としていて、
そこに違和感を感じてしまってもうダメでした。

私の自宅周辺は「軽トラ」が結構走っていて所有している知り合いも多くいるけど、
誰も「軽トラ」を「田舎のポルシェ」とは呼んでいません。

だって「ポルシェ」って憧れの車で滅多に見かけない車ですよ、高くて速い車です。

一方「軽トラ」はどこにでもある車で、安くて遅い車です。

比喩や比較の対象にならない車なのに、「軽トラ」を「田舎のポルシェ」と呼ぶなんてアホです。

「ポルシェ」は「都会の軽トラ」になってしまいます。

古臭い話が続きます

ストーリーでは古臭い話が続きます。

取り上げているテーマが古臭いんです、
既にみんなが知っていることをほじくり返している感じです。

またこの話題かよってことです。

過疎とか。話の世界観が狭いし暗い。

小っちゃい世界のことを一生懸命に話してくれているんだけど、
「今さらこんなことを教えてもらってもな」という感じになってしまいました

最後までどこか引いた感じで読んでしまって、感情移入して読むことができませんでした。

2篇目「ボルボ」

『ボルボ』
不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったがー。内容紹介(「BOOK」データベースより)

ボルボが可愛そうに感じる小説

車好きの視点で感想を書くと、
登場するボルボステーションワゴンを可愛そうに感じる小説でした。

簡単にストーリーをお話しすると、
「厄介な存在となってしまった20年落ちのボルボステーションワゴンが、最後の最後で大活躍」
という話です。

登場する20年落ちのボルボステーションワゴンが、
エンディングまで「年季の入ったボロ車」という扱いで書かれていて可哀そうでした。

小説の内容紹介に「廃車寸前のボルボ」とありますが、
20年も愛用した車(ボルボステーションワゴン)をそんなふうに表現してはいけません。

車の名前をタイトルにしている小説なのだから、外車好き・車好きとしては、
「このステーションワゴンはこんなところがいいんだよ」という話をもっと読みたかった。

だけど、この小説にはそのような記述はありません。

愛車との20年間の思い出や所有していてよかったというエピソードが綴られないまま、
ボロ車の困ったエピソードばかり綴られるのは、車好きの読者には苦痛でしかありません。

車好きであればあるほど、作中のボルボの扱いに憤りを感じるであろうと思いました。

タイトルを「ボルボ」とすること自体がダメ!

車は走らせるものです。

タイトルに車の名前を冠した小説であれば、
タイトルの車を走らせた時のフィーリングを小説の中に書かなくてはいけません。

ドライビングフィールとか、アクセルやブレーキの反応とか、
他の車と比べて走行性のはどうなのかといったことを、小説の中に書くべきです。

「ボルボ」という小説には、それ(車を走らせた時の楽しさの表現)がありません。

タイトルが車の名前の小説なのだから、最低限、この程度は書いて欲しかった。

ボルボはどの車種も、他のヨーロッパ車と比べてスタートがもったりとしている。
特にステーションワゴンは車重があるせいか、もったり感が顕著である。
だが、その感じを優雅と称して受け入れ、楽しんでいるユーザーも多い車である。
私もそんな優雅な走りを気に入っている一人である。

車の名前をタイトルにするのであれば、タイトルの車のことを掘り下げて書かなくてはダメです。

憧れの車をやっと手にして長く乗ってきたけど、修理代がかさむようになって維持費が大変。

なんてことは、車好きからしたらどうでもいいんです。

憧れの車を手に入れて、長く維持できていることの幸福感をもっと語って欲しいのです。

それすら語れない小説なのに、どうして車の名前をタイトルに冠したのか?

それはきっと、
「ボルボ=頑丈」というイメージが、世間一般に広く認知されているからだと思います。

頑丈な車だということを読者に安直に伝えたい・理解してもらいたいがためだけに、
タイトルを「ボルボ」としたのであるならば、それは間違っているし、考えがせこい。

作者は反省するべきです。

エンディングでは「ボルボが頑丈でよかったね」となるのですが、
仮に「頑丈な車でよかったね」と読者に思ってもらいたいから、タイトルを「ボルボ」にした。

というのであれば、タイトルのつけ方が間違っています。

頑丈さというのはボルボの魅力の一部分でしかないからです。

ボルボの頑丈さは、万が一の場合の付加価値でしかありません。

車の魅力を語るのに、付加価値である「頑丈さ」をことさら強調してはいけません。

なぜなら、車の魅力は走りにあるからです。

走りの悪い車に、運転していて楽しくない車に魅力は感じません。

この小説の作者は、車の魅力の本質を理解していないように感じました。

「この作者は、タイトルに車の名前を冠した小説を書くべきではなかった」
というのが率直な感想です。

車の走りに関する文章がない「ボルボ」については辛口の感想になりました。

車の名前をタイトルにした短編小説で、車の走りについて魅力的に書いている小説があります。

絲山秋子さんの「スモールトーク」です。ぜひ読んで見てください。

スモールトーク 絲山秋子

3篇目「ロケバスアリア」

『ロケバスアリア』
「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。女性の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る。内容紹介(「BOOK」データベースより)

「女性の願いを叶える」という一貫したテーマが良かった

本書の中では、3篇目の「ロケバスアリア」が最も気に入りました。

ストーリーもぶれずに「叶える」方向に進むので、読み進めやすかったです。

コロナ禍のドライブならではの出来事・トラブルが起こって、
今の世相に合ったエピソードが綴られているのも新鮮味があってよかったです。

私はテーマの一つとして取り上げられている、
デイサービスセンターで働く音楽療法士の女の子のエピソードがとても気になりました。

「なかなか厳しいんですね、現実は」と嘆息(たんそく)した。(213ページ)

という文章に、私も「そうだな」とつぶやいていました。

上記の前後の文章は、今の日本社会の問題点を的確に表現しています。

ストーリーに上手く差し込まれていて、上手いなと思うと同時に、勉強になりました。

主人公の生き方、というか考え方にも共感しました。

「自立した大人」っていう感じです。

私も「こういう方向に人生を歩んでいけたらな」と思いました。

気になった方は、
3篇のうち「ロケバスアリア」だけでも読んでいただければと思います。

今回は、車好きの50代男性が読むと微妙な感想になりそうな「田舎のポルシェ」を紹介しました。

本書以外にも「篠田節子さんの小説」を紹介しています。
下記の画像をクリックして、併せて読んでみてください。

【篠田節子さんの小説】

となりのセレブたち 篠田節子

篠田節子さんのように、直木賞を受賞した女性作家「桜木紫乃」さんの小説も紹介しています。
下記の画像をクリックしてぜひ併せて読んでみてください。

【桜木紫乃さんの小説】

 ホテルローヤル 桜木紫乃 裸の華 桜木紫乃 光まで5分 桜木紫乃 霧 ウラル 桜木 紫乃

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