「小さな場所」50代男性へのおすすめ度
★★★☆☆ ← 50代男性が読むと新しい発見があるはず
あらすじ
内容紹介(「BOOK」データベースより)
紋身街は世界中のどの街にも一本はある、細くて小汚い、猥雑な通り。
大人たちは狡くていけしゃあしゃあと嘘をつくけど、大切なことも教えてくれる。
少年が見つめる台湾の原風景。東山ワールドの到達点。目次(「BOOK」データベースより)
黒い白猫/神様が行方不明/骨の詩/あとは跳ぶだけ/天使と氷砂糖/小さな場所
キーワード
台北、細くて小汚い通り、食堂、タピオカミルクティーの屋台、刺青店
感想
50代男性が読むと、何かしらの気付きを得られると思います
東山彰良さんの小説を読んだのは、本書「小さな場所」がはじめて。
「小さな場所」は、連作短編6編の小説。
主人公はもちろん、メインの登場人物は6篇ともすべて同じ。
台湾・台北の街にある「細くて小汚い通り」で繰り広げられる6話の物語です。
細くて小汚い通りや、刺青の彫り師たち、チンピラが登場するシチュエーションゆえ、
物語はそれなりにハードなストーリーです。
主人公は、小学生の頃のできごとを語る少年で、この小説のストーリーテラーでもあります。
小学生の目線で物語が進むのですが、確固たる自分を持っている小学生が語るので、
ストーリーにかったるさがなくて面白いです。
心理的に重くハードなストーリーも多いのですが、
主人公の軽妙な語り口のおかげで、サラッと読めるのがいいです。
気に入った短編は「神様が行方不明」と「小さな場所」です。
神様が行方不明
お堂で祀っていた神様が家出をしてしまい、困った氏子たちが神様探しをするエピソード。
何とかお堂に戻ってほしくてあたふたする人たちが気の毒で面白い。
日本でも、自分の周りでも「こんなことあるかもな」と思えて楽しく読めました。
小学生のくせに家族でもない大人を相手に、
自分の考えを率直に話す主人公がとてもいいです。
「ねえ、家出した神様なんか見つかりっこないよ」(中略)
「本当はずうっと廟にいて、ただサボってるだけかもしんないじゃん」(57ページ)
「しんないじゃん」がいいですよね。
最近、言わなくなりましたね、もう50過ぎだから恥ずかしくて。
思わず吹き出してしまった文章もありました。
(中略)なにかというと、年寄りはすぐに神様を持ち出す。
たぶん誰も年寄りの言うことなんか聞かないものだから、
神様が言ったことにしておけば、ぼくたちが言うことを聞くと思っているのだ。
だから人間には神様が必要なんだ、とぼくは思った。
なぜって、誰だっていつかは年寄りになっちゃうんだから。(60ページ)
生意気な小学生らしい着眼点で面白いです。
実はこの前の文章もよくて、紹介したかったのですが、
あまり引用し過ぎてもと思いやめておきました。
本を手にしてぜひ、読んでみてください。
小さな場所
小学生の時に友達と派手に喧嘩して、なかなか仲直りできないでいたことってありましたよね。
タイトルと同じ名前の短編「小さな場所」を読んで、仲直りしたくてもイジになってしまい、
友達に話しかけることができないでいた、かつての自分を思い出しました。
友達と仲直りできずにいる状況で、主人公が書く作文「カエル」が心に残りました。
「カエル」を読むと、でかい世界への進出を夢見ていた頃の自分を思い出す人もいると思います。
「カエル」にはいろんな意味が含まれていて、とてもいい作文です。
こんな素晴らしい作文が書ける主人公の成長が楽しみです。
全編読み終えたとき、主人公の住む「細くて小汚い通り」が気になって、
「あなたは台北に行ってみたくなっている」と思います。
私が気に入った文章
短編6編のすべてに、皮肉が効いた文章が散りばめられていて、とても面白かったです。
心に立派な刺青が入っている
「彼(クリスティアーノ・ロナウド)は刺青なんか入れてない。
まわりのサッカー選手がみんな入れてるのに、なぜだと思う?
定期的に献血をするから、刺青を入れられないの。
そういう人は体じゃなくて、心に立派な刺青が入っているのよ」(14ページ)
彫り師のニン姐さんのセリフです。
客に向かって話しています。
刺青を入れたいと望む客に、普通こんなこと言わないよね。
英語はいいんだよ
「けど、みんな英語のラップはよく聴いてるじゃん」
「英語はいいんだよ」
「なんでさ?」
「この国では誰もが英語をしゃべるふりをしたいからさ」阿華が言った。
「だから英語がわかんねえって認めるわけにゃいかねえんだ」
まるで裸の王様みたいだな、とぼくは思った。
馬鹿の目には見えない生地でつくった洋服、王様が裸だとは口が裂けても言えない衣装ーそれが英語なのか!(82ページ)
主人公の小学生と、タピオカミルクティーの屋台店主(阿華)の会話。
このロジックは、日本人の行動にもあてはまりますよね。
日台同時発売だからなのか、
この小説では「日本人にもあてはまる、台湾人が語る皮肉の効いたセリフ」が結構でてきます。
何でも手に入る女
笑っているはずなのに、いつのまにか泣いていた。
まるで陽が落ちるように笑い声が黄昏れていき、月が満ちるように涙が輝きだす。
彼女は笑うことと泣くことをいっぺんにやろうとして、どちらにも失敗していた。
(162ページ)
素晴らしい文章です。
ふたつのことを同時にやるのは難しいし、それが感情のほとばしりであるなら、なおさらです。
この彼女は何をやってもうまくいかない娘なんです。
なので、この文章を読んだらとても切なくなりました。
「小さな場所」は、いい文章がとても多い短編小説です。
あなたが気に入る文章もきっと見つかると思います。
ウイットの効いた文章が好きな50代男性に、
ぜひ読んでもらいたい「小さな場所」を紹介しました。