「ある男」50代男性へのおすすめ度
★★☆☆☆ ← 好奇心旺盛な50代男性向け
あらすじ
内容紹介(「BOOK」データベースより)
彼女の夫は「大祐」ではなかった。
夫であったはずの男は、まったく違う人物であった…。
平成の終わりに世に問う、衝撃の長編小説。
キーワード
子供は親を選べない、変身、入れ替わり、差別、遺伝
感想
平野啓一郎さんの小説を読んだのは、「ある男」がはじめてです。
映画化されたと話題になっていたのと、
タイトルとあらすじにひかれて読んだけど、つまんなかった。
残念。
つまらなかった理由 その1:難しい漢字が多すぎる
「難しい漢字がたくさん出てきて、そこでつっかえちゃう」というのも、
つまらなかった要因の一つかもしれません。
人生で初めて目にした漢字もありましたし、
京都大学に入学する人の文章ってこんなに難しい漢字を使うのかと思ってしまいました。
「頭の良い人の書く文章ってなんかつまらない」そんな感想です。
つまらなかった理由 その2:淡々した文章
ほとんどの文章が淡々としていて、読んでいて気持ちがのってこない。
「面白いな」って感じる本は、
読んでいるうちに自然と文章に引き込まれていってしまうものなんだけど、
「ある男」にはそれがありませんでした。
読み手の気持ちが高ぶらない小説って、
いくらテーマが斬新であってもつまらなくなってしまうのだと思います。
私の中で、「ある男」はその典型的な例になったと思います。
つまらなかった理由 その3:サブテーマがありすぎる
「ある男」には、いじめ・差別・偏見から逃れたいという人がたくさん出てきます。
問題を抱えた人間がたくさん出てきて(個々の問題をサブテーマとする話が多すぎて)、
話がガチャガチャしてしまって本筋(メインテーマ)をつまらなくしてしまっていると感じました。
せっかくいいメインテーマなのに、残念です。
私の考える「ある男」のメインテーマは「子供は親を選べない」です。
「ある男」のメインテーマを「子供は親を選べない」とすると、子供は実の親を選べませんので、
悪人の子供として生まれ・悪人に育てられた子供もいることになります。
悪人及びその子供は当然、周りから嫌われ、避けられます。
周りからすると、悪人は近くにいてほしくない存在だからです。
そうなると、悪人を自分から遠ざけたい気持ちが強くなる人も出てくるでしょう。
「親が悪人なんだから、子供だって悪人になるだろう」という偏見を持つ人も出てきます。
そんな偏見を持った人は自分の子供に、
「あんな親の子供と仲良くしてはいけない」と言い聞かせます。
言い聞かされた子供は、学校で悪人の子供をいじめます。
悪人の子供は親と同列と判断され、いじめられてしまうのです。
そこに、悪人の子供(個人)の性格や人格はまったく考慮されません。
「悪人の子供なんだから悪人」という偏見でいじめられてしまう子供がいる。
悪人の子供は、自分の性格や人格とはまったく関係がない偏見によっていじめられ、
つらい人生を送ります。
悪人の子供が、いじめやつらい人生の打開策にどんな方法を選ぶのか。
そこが、この小説の重要ポイントだと私は考えました。
ところが、重要ポイントのストーリーがなかなか前に進みません。
重要ポイントである「悪人の子供が選んだ打開策」をどんどん深掘りしていってほしかったのに、
ちょくちょく別のテーマ(サブテーマ)がストーリーに入ってきて前に進みません。
本流(メインテーマ)に対して支流(サブテーマ)が多すぎて、
ストーリーがガチャガチャしてしまい、重要ポイントの深掘りの邪魔をしていると感じました。
扱うサブテーマが多いと、その分共感してくれる読者は増えるかもしれませんが、
本書は、サブテーマ(問題提起)が多すぎて、
メインインテーマの勢いがそがれてしまった感があります。
「もっとメインテーマに集中してストーリーを進めてほしかった」というのが率直な感動です。
つまらなかった理由 その4:登場人物の個性が弱い
「自力で現状打破できずに逃げ出してしまう人間」が
主要な登場人物なので仕方がないのかもしれませんが、
もっと突拍子もない人間が出てきた方が、
ストーリーにメリハリが効いたのではないかと思いました。
例えば、仮面ライダーに憧れる正義の味方気取りの探偵とか。
悪い人っぽい登場人物はそれなりに出てくるんだけど、物足りないんです。
面会に来た世話にもなっていない弁護士に尋ねられたことにちゃんと答えたりする犯罪者など、
登場人物のクセが少なすぎて、つまらなかったです。
私が気に入った文章
「昔のこと、思い出したりもされないんですか?」
「人間関係も断って、その土地から離れたら、自然と忘れていきますよ。ー いや、ただ忘れようとしても、忘れられないですよ、嫌な過去がある人は。だから、他人の過去で上書きするんですよ。消せないなら、わからなくなるまで、上から書くんです。」(304ページ)
この小説「ある男」の重要ポイントを語っている会話だと思い、取り上げました。
このような会話がもっと多く書かれていれば、もっと良い小説になっただろうになと考えると、
とても残念に思います。