人生をやり直すきっかけは不意にやってくる|錦繍(きんしゅう)宮本輝

錦繡 宮本輝 小説

「錦繍」50代男性へのおすすめ度

★★★★☆ ← やり直しのきっかけは不意にやってきます

あらすじ

内容紹介(「BOOK」データベースより)
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。
そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴るー。
往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。

キーワード

喫茶店、モーツァルト、美容室、パンフレット

感想

人生をやり直すきっかけは不意にやってくる

初版が1985年5月なので、たぶん一度読んでいると思うんだけど、その事を忘れていました。

主人公は女性。

順風満帆な人生であったのに、夫のある事件をきっかけに激変してしまう。

夫婦とも、かつて思い描いていた人生とは違う人生をしばらく歩むことになる。

読み進めていくと、この小説は前に読んだことがある気がすると思いはじめました。

ところどころに、覚えのあるシーンがでてくるからです。

そう思いながらも、読者を引き込むストーリー展開がたくみで、そのまま読み続けていました。

主人公の元夫を応援してしまう

私が好きな展開は、主人公の元夫が新たなパートナーと出会い、人生を歩み直しはじめるところです。

パートナーとはじめた仕事をきっかけに、新しく出会う人々との交流や会話、昔の知人とのエピソードが、読者に希望を抱かせます。

気付くと、主人公の元夫を応援していました。

これまでキツかったけど、「きっとハッピーエンドで終わってくれるだろう。」との期待を読者である自分が持ちはじめます。

そんな期待を抱きつつ、新しい仕事で出会う「印刷会社の社長」と、元夫との会話がとても印象に残りました。

仕事を頑張っている、仕事に真摯に向き合っている大人の男の会話でした。

このシーンを読んで、やっぱり一度読んでいるなと確信しました。

印刷会社の社長と元夫との会話の中身を覚えていたからでした。

30年ぶりに読み返しても面白い

はじめて「錦繍」(きんしゅう)を読んだのは大学生の時だったと思います。

しばらく宮本輝さんの小説を続けて読んでいた時期がありました。

その頃は、本屋で宮本輝さんの新しい文庫本を見つけると、その場で買い求め読んでいました。

当時、友人との待ち合わせに本屋を指定することが多く、そんな時は文庫本のコーナーによく立ち寄っていました。

待ち合わせ場所が本屋なら、自分が約束の時間より先に着いても、相手が遅れてきても時間をつぶしやすいからでした。

あのあたりなら、あそこに本屋があると頭に入っていました。

そんな記憶が「錦繍」を読んでいて、よみがえりました。

懐かしいと思うと同時に、自分が年齢を重ねたという事実を改めて実感することになりました。

なにしろ、はじめて「錦繍」を読んでから30年も経っているのですから。

良い小説には自然とまた巡り合える

30年前、大学生であった自分が主人公や元夫の心の葛藤をどこまで理解できたのか、今となってはわかりません。

ですが、印刷会社の社長と元夫との会話の中身を覚えていたのだから、きっと「錦繍」という作品に良い影響を受けたのだと思います。

仕事の好不調を経験・浮き沈みを体感してきた50代の今の私なら、印刷会社の社長と元夫との会話の本質が理解できます。

仕事の頑張りどころという意味で、ここで頑張らないと、ここで頑張れば先が見えてくる、という意味で二人の会話はとてもよく理解できました。

その気持ちを共有できる仲間の大切さも、今ならわかります。

今回、この「錦繍」という良書に再び巡り合うことができて、時を経て良書を読み返すことの素晴らしさを体験できて幸せでした。

「いい小説には時がたってもまた巡り合えるものなのだ」と思いました。

私が気に入った文章

その人の人生の業(ごう)
人生を生きて行くための、最も力強い糧(かて)となるものを見た。(手術台の上で)

50代男性にぜひ読んでもらいたい「錦繍」(きんしゅう)を紹介しました。

本書以外にも「宮本輝さんの小説」を紹介しています。

下記の画像をクリックして、併せて読んでみてください。

【宮本輝さんの小説】

灯台からの響き 宮本輝 よき時を思う 宮本輝

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