「花に埋もれる」50代男性へのおすすめ度
★★☆☆☆ ← 好奇心旺盛な50代男性向け
あらすじ
内容紹介(「BOOK」データベースより)
彼の身体よりもソファの肌触りを愛する女。
身体から出た美しい石を交わし合う恋人たち。
憧れ、執着、およそ恋に似た感情が幻想を呼び起こし、世界の色さえ変えていくー
「女による女のためのR-18文学賞」受賞作「花に眩む」を初収録。
原点にして頂点。ベストアルバム的短編集、ここに誕生。目次(「BOOK」データベースより)
なめらかなくぼみ/二十三センチの祝福/マイ、マイマイ/ふるえる/マグノリアの夫/花に眩む著者情報(「BOOK」データベースより)
彩瀬まる(アヤセマル)
1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒。
2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。
13年に小説としての初の単行本『あのひとは蜘蛛を潰せない』を上梓。
17年『くちなし』で直木賞候補、18年同作で第5回高校生直木賞受賞。
21年『新しい星』で直木賞候補。
23年には本書所収の短編「ふるえる」がイギリスの老舗文芸誌「GRANTA」に掲載、『森があふれる』の英語版が出版されるなど海外でも高い評価を受ける
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
キーワード
不思議な世界
感想
彩瀬まるさんの小説を読んだのは、この「花に埋もれる」がはじめて。
「花に埋もれる」には、短編小説が6話収録されています。
不思議な世界の抽象的な物語ばかりでしたが、SF小説よりのわりと好きな世界観の物語でしたので、楽しく読めました。
物語の雰囲気が村上春樹さんの短編小説に似ているという印象を持ちました。
星2つとしたのは、50代のおっさん向けではないからかな。
それと、ストーリーのテンポが遅くて間延びしちゃう、ワクワク、ドキドキ、この先どうなるのかという期待感がおきない作品が多かったのも星を少なくした理由です。
しかし、物語の世界観や内容は新鮮で、文章もしっかりしているので、私が20代の時にこの短編集に出合い読んでいたなら、星をもっと多くつけていたかもしれません。
2023年発行の単行本なので、現実にはそんなことできないんだけどね。
「花に埋もれる」に収録されている6話の短編の感想を書きましたので、読んでみてください。
なめらかなくぼみ
主人公は独身の女性。
購入したソファーの触り心地が気に入りすぎて「男なんていらない!」という気持ちがまさり、結局独身を続けてしまう。
だけど、セックスは必要なようで、相手は変われども生身の男性との交わりは続けている。
50代のおっさんとしては、どうも理解できないんだけど、「安定した収入のある令和の30代独身女性にはありなのかもしれないな」と思って読んでいました。
小説の文章は平易でリズムが良く、読みやすかったです。
文章は読みやすくても、この先どうなるのかというストーリーへの期待感が少ないので、読み終わるのに時間がかかりました。
彩瀬まるさんはセックスの描写表現が独特で、その点はとても気に入りました。
これまでに読んだことのない面白い表現がポンポンでてきて、エロい体の動きをゆるい言葉で文章にできる作家さんだと感心しました。
直接的な表現を使わないのが女性作家らしくていいのか、遠回しな表現の方が女性読者に受け入れられやすいからそう書いているのか、そこまでは分かりませんけど。
ゆるい言葉であっても行為の進行状況はちゃんと伝わるので、新鮮な気持ちで読むことができました。
気になる方は、本書の12ページから14ページを読んでみてください。
短編の後半にもエロいシーンがあって、このシーンもゆっくりとした感じでいいです。
女性に「もう出したい?」なんて聞かれたら、男は「うん」って言っちゃうよね。
でもどうして彩瀬まるさんは、エッチの時の男の気持ちがこんなによく分かるのかな?
短編「なめらかなくぼみ」の感想は、先に書いた「安定した収入のある令和の30代独身女性にはありなのかもしれないな」がすべてです。
50代のおっさんには理解が難しいということです。
二十三センチの祝福
短編としてのできはとても良かったです。
ですが、元気をもらえるようなストーリーではないので、元気がない時は読まない方が良いと思います。
基本、男は女に優しくしたいものですが、相手(女)がそれに馴染まないのは辛いです。
50代のおっさんなら、とても切実に感じるのではないかと思います。
本書の44ページあたりを読んでいたら、こんな感想が頭にフッと浮かびました。
ストーリーは、さえないおっさん(加納くん)とグラビアアイドルの交流がメインなんだけど、加納くんはグラビアアイドルに親切にするばかりでちっとも手を出そうとしないんです。
そこがおっさん読者としてはつまらなかったです。
女性からすると逆で、エッチなしの方が良いのかもしれないですね。
「二十三センチの祝福」で気に入った文章を紹介します。
こんなことをグラビアアイドルに目の前で言われたら、自分を制御できないだろうなあ。
「加納さん、私はできは悪いけど、夢の女なんです。男の人の、毎日しんどいなあ、こんな姉ちゃんに触りたいなあ、きっとやーらかくて気持ちいいんだろうなあってイメージを形にして、いい夢見てもらうのが仕事なの。だから、どんな大人だって、たまには赤ん坊にならなきゃやっていけないこと、知ってます。」(61ページ)
知ってるんですよ彼女は。
「知っている彼女に甘えたら、どれくらい優しくしてもらえるのか」おっさんは妄想がとまりませでした。
「二十三センチの祝福」は、落ち込んでいない時に読んでください。
マイ、マイマイ
面白かったです。
この短編集の中では、1番か2番の良いできの小説でした。
面白い発想をする作家さんだなと思いました。
はじめ「マイ、マイマイ」というタイトルがピンとこなかったんだけど、最後まで読むと意味が分かります。
「マイ、マイマイ」は、年頃の女の子(女子大生)が主人公の短編小説です。
年頃の女の子を持つ50代のおっさんが読むと、主人公が自分の娘と重なってちょっと心配になってしまうかもしれません。
「うちの娘がこんなことになっていたら、可愛そうだなぁ」などと考えて読んではいけません。
反対に、これも本人の成長のためには仕方ないことだと、割り切って読むと案外楽しめると思います。
はじめにも書きましたが、「花に埋もれる」は、50代のおっさん向けの短編小説集ではないので、ある程度おっさん側が小説(ストーリー)に寄り添って読む必要はあると思います。
50代のおっさんがこの短編集を面白く読むためのポイントは、ストーリーにどこまで寄り添えるかだと思います。
今まで、ストーリーに寄り添って本を読むなんて考えたこともなかったので、新たな読書スタイルを発見した気分になりました。
「マイ、マイマイ」で気に入った文章を紹介します。
「わかるなぁ。この状況、目に浮かぶなぁ」と、思わず昔を回想してしまう良い文章です。
半分残ったビールのグラスをさっとつかんで、鈴白くんはうれしそうに腰を上げた。私は鈴白くんの隣に座るため、入店前から様々なタイミングを測っていたというのに、ハルヒちゃんは熟練の漁師がマグロを一本釣りするみたいにすぽーんと彼を引っこ抜く。(75ページ)
「マイ、マイマイ」は、娘をおもう親心をくすぐられる短編小説でした。
ふるえる
淡々としていて、物悲しくて面白い小説でした。
誰かを好きになると心が震えて、好きな人の前に出ると震えがさらに大きくなって心臓がドキドキして「もしかして、好きな相手に自分の鼓動が聞こえているのではないか」と恥ずかしくなって、どうしようもない状況になっても、相手は自分のことをなんとも思っていなくて心も震えていなくて、共振なんてないから片思いで終わる。という話です。
「マイ、マイマイ」でも感じたけど、彩瀬まるさんは心を、手に取れる・手で触れられるモノに置き換えるのが上手な作家さんだと感心しました(「ふるえる」では石が心の震えの置き換えになっています)。
心の葛藤をモノに置き換えるのでストーリーも不思議な世界の話になるのですが、彩瀬まるさんの文章には、こんな世界があってもいいかもなと読者に思わせる力があります。
なので、ストーリーが破綻しません。
不思議と自分の世界と同じ世界の話のような気がして、スラスラ読むことができます。
これまでの作家さんにはない独特の表現方法に、新鮮味を感じました。
心がモノとして目に見える世界の方が、意外と生きやすいのかもしれないと思いました。
マグノリアの夫
この短編集で一番気に入った作品です。
若い夫婦の馴れ初めからはじまって、最後はしんみりしちゃうお話です。
面白いので読んでみてください。
ここまで短編集「花に埋もれる」を読んできて、彩瀬まるさんの作風が頭に馴染んできたように感じます。
「静かなリズムでしっかりとした文章を書く作家さん」という感じです。
騒がしくて速い文章は書かない作家さんなのだと思います。
文章の構成も丁寧で、急ぐということは感じられません。
ですが、読者によっては「のんびりしていてちょっと物足りない」と思う人もいるかと思います。
私は、彩瀬まるさんの文章のリズムは好きですが、物語のテンポをもう少し速くしてほしい人です。
「マグノリアの夫」は、出だしの展開からは予想もできないストーリーになります。
突拍子もない話なのですが、なんか受け入れて読んでしまいます。
きっと、彩瀬まるさんは、おとぎ話のようなストーリーを考えるのが大好きな作家さんなのだろうと思いました。
「マグノリアの夫」で気に入った文章を紹介します。
「陸さんって柔軟なのに、時々すごく一本気ですよね。人間に強固な一貫性や明確さを求めるというか。陸さん自身が内部に矛盾を溜めこまない方なんでしょうし、そこが作品の爽快感に繋がって、読者に喜ばれるんだと思います」(137ページ)
なんとなく、私自身が批評されている気分になったので、選んでみました。
花に眩む
まあまあかな。
短編小説としての構成も長さも丁度いいのだけど、なんか物足りない感じで終わったなとい感想です。
この「花に眩む」も我々とは体のつくりが違う人類が登場する物語。
彩瀬まるさんは、こういう微妙なSF小説の世界観が好きなんでしょうね、きっと。
50代のおっさんが読むと物足りなさを感じるのに対して、20代を中心とした若い人たちが読むと新鮮さを感じるのかもしれません。
中途半端な感想になりましたが、これが「花に眩む」の感想です。
今回は、好奇心旺盛な50代男性向けの短編小説集「花に埋もれる」を紹介しました。
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