こんにちは。いそじです。
今回は、道尾秀介さんの小説「水の柩」(みずのひつぎ)をご紹介します。
道尾秀介さんの小説を読むのは、この「水の柩」がはじめてです。
「水の柩」は、とても良かったです。
しばらくつまらない小説の紹介が続いていましたが、今回はとても良い小説を紹介できるので、嬉しく思っています。
このブログが、50代おっさんの本選びの参考になりましたら幸いです。
「水の柩」50代男性へのおすすめ度
★★★★☆ ← 50代男性が読むと懐かしい思い出が蘇ります
あらすじ
内容紹介(「BOOK」データベースより)
老舗旅館の長男、中学校二年生の逸夫は、自分が“普通”で退屈なことを嘆いていた。
同級生の敦子は両親が離婚、級友からいじめを受け、誰より“普通”を欲していた。
文化祭をきっかけに、二人は言葉を交わすようになる。
「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」敦子の頼みが、逸夫の世界を急に色付け始める。
だが、少女には秘めた決意があった。
逸夫の家族が抱える、湖に沈んだ秘密とは。
大切な人たちの中で、少年には何ができるのか。著者情報(「BOOK」データベースより)
道尾秀介(ミチオシュウスケ)
1975年生まれ。
2004年に『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。
’07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞、
’09年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞(長編部門)、
’10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞、
’11年『月と蟹』で第144回直木賞を受賞
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
キーワード
中学生の男女、喉、タイムカプセル、蓑虫(みのむし)
感想 情緒あふれるストーリー
宮本輝さんの文章によく似ている
道尾秀介さんの文章は、宮本輝さんの文章によく似ていると思いました。
もちろん良い意味です。
スラスラ読めるのに情景が思い浮かべられるいい文章を書く作家さんだと思いました。
私は、情景描写こそ作家の実力が如実に現れる文章だと思っているので、好印象でした。
情景描写が下手だから、はなっから省いている作家や、読者がつっかえつっかえ読み進める文章を書く作家が多い中、道尾秀介さんが書く文章はとても私好みの文章でありました。
タイムカプセルには、色々な意味が含まれている
この小説のキーワードの1つに「タイムカプセル」がありますが、「タイムカプセル」には色々な意味が含まれているように感じました。
- 真に「タイムカプセル」
- ダム湖
- 写真
これらが「タイムカプセル」という言葉にリンクしている、含まれていると思います。
実は「タイムカプセル」は一例であって、この小説は1つのエピソードがそこで終わりになるのではなく、他の情景のエピソードに繋がっています。
その繋がりを追う、探すのも面白く、読了後に「読んだかいがあったな」と思える良い小説に仕上がっています。
それにしても、身近な題材のストーリーなのに、こんなに情緒あふれるストーリーにできるなんて、道尾秀介さんの文章力はスゴイです。
私が気に入った文章
どうせ正解なんてないんだから
「宿を継いだら面白いこと起こるかな?」という中学2年生の主人公の質問に、35歳の従業員(板前)が答えたセリフです。
「でも将来の道なんて、人に言われて選ぶもんじゃないよ。
それに確実に面白い仕事なんてないんだから、先にそれを期待しないほうがいい」
(中略)
「まず思い込むことが大事なんだよ、何をするにしても。
世の中のほとんどのことには、どうせ正解なんてないんだから。
面白いとか正しいとか、何でも思い込んだもん勝ちだよ」(58~59ページ)
まったくそうですね。
何だってつまんない、つまんないって考えていると続かないものです。
それにしてもこの35歳の板前さんは達観してますよね。立派です。
きっと美味しい料理を出すんだろうな。
思わず「上手い」って声に出していました
相手の反応が期待していたものと違い「熱のないつぶやき」で「がんばってね」と言われた主人公の落胆を表現した文章です。
自慢しようと思って履いてきた新しい運動靴に、まったく相手が感銘を受けなかったときのような気分で、逸夫もまた曖昧な言葉を返した。
「そっちも、がんばりなよ」(188ページ)
中学生ですもんね。スニーカーですよねやっぱり。
新しいスニーカーを自慢げに学校に履いて行った自分を思い出しました。
案外、誰にも気付かれないもんなんですけどね。
自慢げに学校へ持っていくといったら何でしょう。
小学生なら下敷きかな?
高校生だと何だったでしょうか?
でも中学生の時の新しいスニーカーって嬉しかったですよホントに。
いいとこつきますよね道尾秀介さん。
文章の上手さにハッとしました
ダム湖での会話の地の文です。
視界の隅を、細い絵筆で払ったように山鳥が飛んでいく。(258ページ)
その場で(山奥のダム湖)ならありそうなこと(山鳥が飛んでいくという情景)を、会話の間に上手く差し込んでいます。
素人の私からすると、テクニック的にかなり難しいことのように思えるのです。
ですが、「細い絵筆で払ったように」という美しい文章だからなのか、会話のリズムを乱すことなく上手におさまっています。
スゴイ文章力だと感心しました。
もう忘れちゃったな
ここで紹介する文章は、278と279ページにある文章です。
この小説のポイントが詰まったページで、考えさせられるいい文章が続きます。
何かが解決するのと、何かをすっかり忘れてしまうのと、どう違うのだろう。
忘れることと、忘れずに乗り越えることの違いはどこにあるのだろう。
ぜんぶ忘れて、今日が一日目って気持ちでやり直すの。
彼女の言いたかった「忘れる」というのは、本当に記憶から消したり、思い出さないようにするのではなく、「乗り越える」という意味だったのだろうか。
いくら考えても、悩んでも、答えは見つからなかった。
だよね。中学生だもんね。
50代のおっさんも答えが見つからないでいます。
それなのに、中学生の君が「答えがわかった!」なんて言ったらビビっちゃう。
「マジで」って。おじさん、無駄に年取っただけだったかと、自信喪失しちゃうよ。
たぶん、見つからないものなんじゃないかなその答えって。
なんてことを考えながら小説を読むのが結構好きです。私。
上手い文章に感心した
素人の私が、プロの作家さんの文章に「感心した」とかいうのは失礼なことだと承知しています。
でも、ほんとに「感心した」ので、ここで紹介します。
長いので冒頭と終わりだけ。284ページから285ページにかけての文章です。
まったく予期しない強風が背中から吹きつけ、耳の奥を鳴らしながら、水の涸れたダム湖のほうへと走り抜けた。(中略)
遠ざかっていくその風を追いかけるようにして、柵の鳴る音も、小さくなって消えた。
この本の奥付の作者紹介に、次の文章があります。
驚きに満ちた物語と磨き抜かれた文章で、読者の支持を集めている。
まったくその通り。
道尾秀介さん、スゴイ作家さんですね。
自分好みの文章を書く作家さんに、久しぶりに巡り合えて嬉しなりました。
今回は、50代男性にぜひ読んでもらいたい「水の柩」を紹介しました。
道尾秀介さんの小説、初めて読みました。すっかりファンになりました。
文章がいいですよね。特に情景の。他の作品も読んでみたいと思いました。
またこのブログで道尾秀介さんの小説を紹介したいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。