「55歳からのハローライフ」50代男性へのおすすめ度
★★☆☆☆ ← 50代男性には定年退職する前に読んでもらいたい
あらすじ
内容紹介(「BOOK」データベースより)
晴れて夫と離婚したものの、経済的困難から結婚相談所で男たちに出会う中米志津子。
早期退職に応じてキャンピングカーで妻と旅する計画を拒絶される富裕太郎…。
みんな溜め息をつきながら生きている。
ささやかだけれども、もう一度人生をやり直したい人々の背中に寄り添う
「再出発」の物語。
感動を巻き起こしたベストセラーの文庫化!目次(「BOOK」データベースより)
結婚相談所/空を飛ぶ夢をもう一度/キャンピングカー/ペットロス/トラベルヘルパー
キーワード
熟年、年金、生活苦、意見の不一致、夢見たとおりに行かない人生
感想
「55歳からのハローライフ」は、
定年退職や熟年と言われる年齢に達する前に読まないと意味がない。
・「この登場人物たちのようにはならないぞ」
・「将来に備えよう」
と、アラフィフ世代の男性が、決意を新たにするには持って来いの小説です。
1.本のタイトルと装丁について
題名や装丁に期待して読むとガッカリします。
ハッピーエンドの長編小説だと思って読み始めたのですが、
熟年の生活苦を描いた5編の中編小説でした。
表紙の装丁から本の内容を想像するのも読書の楽しみだと思っています。
中年の男女が手をつないで見つめあって歩いている装丁から、
紆余曲折の後、ハッピーエンドで終わる小説を期待していたのですが、まったく違いました。
定年退職後の熟年者たちが、
生活(主に生活費・収入)のことでバタバタして終わる物語ばかりでした。
1編を除いてハッピーエンドとはほど遠い内容でした。
その1編も、装丁のような、手をつないで歩く仲の良い夫婦まで行きつきません。
本のタイトルや装丁からハッピーエンドを期待して
「55歳からのハローライフ」を読みはじめないでください。
2.5編の小説を読んだ感想
全編とおして暗い話ばかりです。
50代の人が気持ちが落ち込んでいるときに読むと、さらに落ち込みます。
自分がそうでした。
仕事の状況が不安定で、悩んでいるときに読んだので、心がザワザワしました。
将来への不安が増したような気がします。
「55歳からのハローライフ」の
登場人物たちを反面教師として、読むことをおすすめします。
はじめに書いたように、
・「この登場人物たちのようにはならないぞ」
・「将来に備えよう」
と思いながら読み進めると、あなたのお役に立つような気がします。
本の内容紹介に「感動を巻き起こしたベストセラー」とありますが、
自分は感動しませんでした。
村上龍さんには、もっとハッピーな小説を書いて欲しかった。
残念。
3.「結婚相談所」がドラマになっていた
最初の中編「結婚相談所」が、ドラマ制作されNHKで放送されていました。
読み進めるうちに「あれ? これドラマで観たことがある」と気付きました。
印象に残るシーンが多いドラマだったので、覚えていました。
あのドラマは、村上龍さんの小説が原作だったのかと思いました。
「NHKドラマ 55歳からのハローライフ」で検索すると、
5編すべてがドラマ化されていました。
自分が観たのは、そのうちの1つ「結婚相談所」だけだったようです。
4.村上龍さんの小説について
大学生の時、村上龍さんの小説が大好きで文庫本を読みあさっていました。
今でも本棚に、当時買った文庫本が34冊あります。
半年ほど前に、「コックサッカーブルース」を読み返したのですが、
「これだよな村上龍さんの小説」と良い印象で読み終えることができました。
ですが、
最近手にした2つの小説はどちらも気に入りませんでした。
1)「55歳からのハローライフ」
5編の中で気に入ったのは「トラベルヘルパー」だけでした。
他の4篇は読んでいてイライラすることが多かった。
2)「半島を出よ」
読了できなかった。
上巻の前半で読むのをやめました。
5年は経っていると思うので、読むのをやめた理由はハッキリと覚えていませんが、
スピード感がなくダラダラとしたストーリー展開がイヤでやめたのだと記憶しています。
そんな自分が大学生の時に、
どうして村上龍さんの小説が好きだったのか、理由を考えてみました。
3)大学生の時に、村上龍さんの小説が好きだった理由
理由は2つあるように思います。
理由1.
「常識では考えられない世界観を物語にする」のが上手い小説家であるから。
前述の「コックサッカーブルース」もそうですが、
村上龍さんの小説では、心に闇を持つ登場人物がハチャメチャな事をします。
でもその「ハチャメチャな事」が刺激的で読んでいて面白いんです。
自分では絶対にやらないようなことが小説のなかで繰り広げられ、
「こいつら何なんだよ! スゲエな!」と思って読むのがとても好きでした。
理由2.
「自分の知らないことを新鮮な刺激として教えてくれる」から。
セックス、ドラッグ、音楽、外国文化、職業ごとの世界観みたいなものを、
小説の中で教えてもらいました。
例えばこんなエピソード。
イタリア人は服装で人を判断する。
イタリアの高級ホテルでは深夜、予約なしでは宿泊させてもらえないけど、
アルマーニのスーツを着ているとあっさり泊めてくれたりする。
もしかしたらテレビ番組で話したエピソードだったかもしれないけど、
この話を聞いて「カッコいいな」なんて思ったりしたものです。
私の言う「職業ごとの世界観」とはこういう文章のことです。
中小の運送会社は、荷主と直接の取引をしているわけではない。
荷主の下には、必ず元請けの運送会社があり、さらに一次下請け会社があることも多い。
そして問題は、その下部に位置する通称「水屋」と呼ばれる荷物取り扱い業者だ。
水屋が、実際に荷物とトラックを引き合わせる。
だから、荷主と運賃の交渉ができるわけもなく、二次、三次の下請けとして、
水屋の世話にならなければ仕事が回ってこない。
(「55歳からのハローライフ」278ページ)
その業界で仕事をしていないと知りえないような情報を、
物語の中にスッと差し込んで読者に教えてくれる。
それが勉強になってとても好きでした。
「へぇー! そうなんだ!」と思って読んだものです。
でも、佐賀県のことを
「長崎県と福岡県に米を供給するだけの県」と言い切るのは、ちょっと言い過ぎじゃない!
とは思いましたけど。
残念ながら、「55歳からのハローライフ」は、
ほとんど私に新鮮な刺激を与えてくれませんでした。
村上龍さんの新しい作品をもう手に取ることはないかもしれません。
読むのであれば、
定年退職する前に読んでもらいたい「55歳からのハローライフ」を紹介しました。